能も演劇の一つです。ただ、テレビや映画で見る演劇とはちょっと変わっていて、能は舞踊と音楽が中心です。「謡(うたい)」という声楽と「囃子(はやし)」という楽器演奏に乗せて、舞踏的な動きで物語を進めてゆきます。簡単にいえば、能はミュージカルやオペラに近い存在といえるのです。
日本の古典演劇を代表する能は、中世の室町時代に観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)父子によって大成されました。時の将軍足利義満の特段の愛顧を受けて、以後江戸時代まで時の権力者の保護を受けてきました。
現在の能楽堂が定着したのは明治初年のことです。(京都観世会館)
般若の能面 |
もう一つの特徴は、「能面」あるいは「面(おもて)」という仮面を使う仮面劇であるということです。能面を付けるのは、「シテ方」と呼ばれる能の主役を演じる役者や、シテ方を補助する役者が付けるもので、老人、あるいは神仏、仙人や亡霊といった超人的な存在を演じるときに使います。 |
若女の能面 |
能は能舞台という専用の舞台で上演されます。およそ6メートル四方の本舞台と、そこから左にのびる廊下のような「橋ガカリ」という二つの空間からできていますが、それぞれに屋根が付いています。建物のなかに家があるような感じです。能はもともと屋外で演じられることが大前提でした。それが近代になって、天候に左右されない室内で上演されることが多くなって、こういう形になったのです。
「石橋(しゃっきょう」の一場面。
お能にはこのように動きが激しい演目もあります。
舞台は、決して広いスペースとはいえませんが、謡という声楽を担当する人々が座るところと、太鼓(たいこ)、大鼓(おおつづみ)、小鼓(こつづみ)、笛など、囃子(はやし)を担当する人々が座るところが決まっていて、ムダなく舞台を使うようになっています。
能のレパートリーは現在約260曲が伝えられていますが、物語は古い日本の文学作品を材料にしたものが多く、セリフも古い日本語がそのまま使われており、言い回しも独特です。